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第6話 組み込みJavaの困難
今回は、さすがのJaTSチームも頭を悩ませ、
ついに連続無敗記録がストップするか、というお話です。
1章 水曜日 10:00AM - かすむ野望
江本は、自分の机で部下からの報告を聞き終えると、小さくため息をついた。
しかしすぐに携帯電話を取り出し、ある相手を呼び出した。相手は、二、三回のコール音の後に電話に出た。
「はい、江里口です」
「ああ、江本です。お世話になっております。今日はちょっとお願いがあるんだけど……」
江本は○×システム社のソフトウェア開発部に所属している。
現在、彼が率いるグループでは、某通信関係の業者から、ある小型端末上で動くアプリケーションの製造案件を受注し、その開発業務を日々遂行中である。
この小型端末では組み込みLinuxが動いている。江本たちが開発しているのは、このLinux上で動作するJavaアプリケーションなのである。
実は、江本自身、組み込みJavaの開発案件はこのプロジェクトが初めてだった。
それどころか、○×システム社全体でも初の案件である。
ソフトウェア開発部では、既存の業務領域の開発案件の受注数が減ってきており、業務の幅を広げるために、何とかこれまで経験のなかった組み込みJavaの案件を営業が取ってきたのである。
つまり、このプロジェクトを成功裏に終わらせることができれば、○×システム社は組み込みJavaでの開発実績を持つことができ、このプロジェクトの継続案件だけでなく、類似の新規案件も取りやすくなる。
だから江本が率いるこのプロジェクトは、会社全体にとって重要な意味を持つのである。失敗は許されない。
江本ももちろんそんなことは認識していた。このプロジェクトを成功させれば、部長も夢ではない。
今の江本は課長だった。二人の子供にも恵まれて、今以上にいい思いもさせたい。
しかし、そんな江本の野望も儚いものとなってしまうかもしれなかった。
開発したアプリケーションに問題が発生しているのだった。
開発したアプリケーションを、顧客から貸し出された実機にインストールしてしばらく動かしていると、Javaのプロセスが強制終了してしまうのだ。
現象のトリガーとなる動作も特定できない。というより、実施する操作にかかわらず、頻繁に強制終了する。もちろんこんなアプリケーションは使い物にならない。
この現象が見つかったのが二日前である。
江本は部下からの報告を聞いて、即座に原因の究明と問題の改修を命じた。それから江本自身もグループメンバと一緒になって、問題の調査にかかりきりになったのである。
江本は課長とはいえ、自分が担当する開発プロジェクトの技術は必ず勉強する。これまで経験のない技術分野とあれば、なおのことだ。
課長にもなると必要な技術の理解は部下に任せてプロジェクトを担当することも普通だが、江本自身はそういうやり方ではプロジェクトが失敗すると考えていた。(※1)
したがって、江本は技術に明るいわけだが、にもかかわらず、一向に問題の原因はつかめず、回避策の見当もつかなかった。
しかし、江本は、この問題が長引く可能性もあると、これまでの経験から冷静に判断してもいた。
だからあらかじめ決めてあった。二日経っても糸口がつかめなければ、電話をしよう、と。

